南飛騨の森から
私ども熊崎家は屋号を高林(たかばやし)として、岐阜県南飛騨の下呂市萩原町にて築200余年の母屋と里山の山林、田畑を守りながら代々農林業を営んでまいりました。熊崎家の家系が記録に残っているのは1694年(元禄7年)頃からで、2018年に誕生した男子をもって10代目となります。
この母屋は江戸時代末期に建てられたもので、この地方特有の強風を受け流すために、軒が低く屋根の傾斜が緩やかな「益田造り」という特徴的な姿をしています。昭和5年、6代目が後世に残し伝えようと現在の場所に移築したもので、建具や襖なども当時のまま、大切に住んでいます。
高林の杉
先祖が代々守ってきた山林は25ヘクタールほどあり、沢筋を中心にスギを育てています。
杉は学名を”Cryptomeria Japonica”といい、日本固有の樹種で古来より私たち日本人の暮らしと密接に関わってきました。構造物の建材や、樽や家具の資材として、皮は屋根材、葉は線香の原料になるなど、日本人にとって最も身近な樹木の一つです。「杉」が付く姓や地名が多いのもその表れでしょう。
成長が早く、加工に適していることから、戦後は国の政策のもと杉の植林・育樹が推進され復興を支えました。現在では、木材の輸入自由化や建物の高層化、ライフスタイルの変化などにより国産木材の需要が減少し、先祖が植林してくれた多くの杉も、伐期を迎えながら木材として伐り出されることのないまま山に立ち続けています。
高林では、山林の手入れを行いながら、地元の造り酒屋の依頼を受けて、昭和60年頃から杉玉を作り始めました。高林の杉葉はよく「香り高い」と評していただきます。近年の研究では、杉の香には消臭効果、防虫効果などの他に安眠効果があるとされ、杉玉だけでなく、杉の葉を欲しいという方もいらっしゃるほどです。
杉玉から、里山文化を次世代へ
杉玉は日本酒を象徴するものですが、現代では里山の自然と暮らしをつなぐ文化を伝える、ひとつの大切な形である、と私たちは思っています。
里山の豊かな風土は、人が手を加え自然と共生する暮らしを維持することで生まれます。手入れの生き届いた森林や水田は多様な生態系を育み、水資源を涵養し、災害に強い国土の基礎となります。農林業が衰退し里山文化が失われてしまうと、その影響は様々なかたちで都市部にも及んでしまうことが既に知られています。
私たちは里山の山林や田畑を守らねばなりません。豊かな国土を維持するためにも、次の世代へと里山を継承していくことは私たちの使命でもあると考えています。
日本の里山には、美味しいお米、美味しいお酒をつくる地域がたくさんあります。「杉玉とお酒」を窓口にして、どうか日本の里山へも足を運んでみてください。
高林の杉玉が、里山の森を守り、自然とともに生きる暮らしをお伝えすることにもなると信じて、ひとつひとつ、丁寧におつくりして南飛騨の山から全国へお届けします。